性・エイズ教育の基本

 性教育の進め方についていろんな議論があります。思春期学会でも、エイズ学会でもこんな方法がいい、こんな方法はだめだという発表が繰り返されます。でも、何かへんじゃないですか。学校での教育は文部科学省が全体的なコンセンサスがとれる範囲できちんとやっているわけですし、学校が地域保健に連携を求めて上手にできている地域も全国にはいくつもあります。しかし、そのような地域も公務員特有の「異動」で担当が替わると「私性教育に居未がないから」と平気で言える状況があるのも事実です。「私一生懸命頑張ります」という担当に替わったとしてもその人が一人前になるには何年かかかります。そのあたりのジレンマはこれから解決するとして、目指すべきレベル、共通理解しておきたいものはこんなものかな、というのをまとめてみました。

全般について
1.何より科学的であること。
2.個人的な価値観を入れるときは必ず(私の考え方です)と明確にする。
  (性を明るく表現したいと思うならそのことを事前に伝えておかないと誤解される)
3.自らの感動、生き方を示す。
4.多様な教え方の存在をお互いが認め合う。
5.コミュニケーション能力の育成を念頭においた内容である。
6.あらゆるテーマが性やエイズに関わってくるので身近な素材を探してする。
7.重要だと思っても自分が口に出して教えられないこと(コンドームの装着法、等)はビデオ等を活用する。

地域保健医療関係者の注意点
1.学校との連携には次のステップが効果的
   @ 教科書を読む(教科書を読んだことがない人は失格!!!)
   A 何より学校サイドの目的と自らの目的を一致させること。
     (*)人と人との関係性が問われる時代にいま、何をどう伝えるべきかを明確にする
        (岩室紳也の考え方一例「あなたは人を愛せますか」
   B PTAの活動を通して、親に性・エイズ教育の重要性を理解してもらう。
   C 親子間の会話が一番効果的だがだめなときは学校の教員向けの研修会を企画してもらう。
   D 教員にも性・エイズ教育の重要性を認識してもらえるような話をする。
      教科書の範囲でできる性・エイズ教育と異なる地域保健関係者の特性(*)を明らかにする。
     (*)具体的な事例(望まない妊娠、若年妊娠、HIV感染、等)を持っている。
        性の話が具体的にできる。
        教材(ビデオ、等)を活用したメニューを提供できる。
   E 教員が全範囲を網羅できないときは生徒に直接話すよう依頼をしてもらう。

2.学校での講演会の際の注意点
   @ 清潔な態度
   A 話す内容を事前に打ち合わせる。
   B コンドームに関する注意点(岩室紳也の細かい考え方
      ・コンドームという用語を口に出していいか
      ・コンドームを見せていいか(黒板に書くだけ、箱のまま、封を切らない、実物、装着法)の確認
      ・コンドームは生徒には直接渡さない(渡すとしたら学校の判断で学校の教員が渡す)
   C 基本的に科学性と事例性をベースとし学校保健関係者との役割分担を明確にする。

3.アンケート調査について
   @ 性行動、性に関する知識のアンケートはニーズ把握、講演の効果判定等の意味で非常に
     重要であるが実態としては実施しにくい。これを無理やりやろうとすると講演会自体が実施
     不能となる可能性がある。
   A 生徒の自由記載の感想はほとんどのところでもらうことができるが、それを教員に読んで
     もらった上でもらうようにする。生徒の生の感想を教員が読むことで性・エイズ教育に対する
     ニーズを感じてもらえる。

4.生徒のニーズから見た補完の重要性
   @ 多数を対象とした集団指導の限界
      ・どんなに生徒がひきつけられる講演であっても必ず気に入らない生徒がいる。
      ・フォローが重要。
      ・内容に抵抗を感じた教員も、いいと思った教員もともに大人としての感想を生徒に伝えてもらう。
      ・大人の感想と自らの感想の対比が本人の価値観の創造につながる。

5.当事者の話の重要性
  @ HIVに感染している人の話
     ・当事者の話は非常にインパクトがあるが、一方で世界中でHIVに感染した何千万人の
      代表ではなく、その一人であることを主催者が意識する必要がある。
     ・HIV/AIDSと共に生きているので医学的な知識もあるが、医師、看護師、保健師、等で
      なければ医療的なところの情報を得るのを目的としない。
     ・話の内容を著作等で必ず事前に確認する。
  A トーク形式のすすめ(パトリックと岩室紳也のコンビ
     ・当事者(PWA/H)と主治医のコンビであれば、外来でのやり取りを再現するだけで性生活面
      を含めたリアリティのある話ができる。

6.機材も使い方次第
  @ スライド、パソコンを使う時は特徴あるものを!(講義資料参照))
  A 若者が聞きたいのは「生の声」と言う基本を忘れないこと。